仕事

私が専門を決めるときに考えていた3つのことの話

こんにちは、Kです。

「将来は何科を目指してるの?」

医学生・研修医が先輩の医師から聞かれる質問ランキングを作られたとしたら、かなり上位に入ると思います。

悩みますよね。

「〇〇科になりたくて医学部に入った」とか「実家が△△科のクリニックを運営しているから△△科に」など、すでに理由がハッキリしている人もいますが、おそらく少数派だと思います。

先輩達は「好きだと思える科を選ぶといいよ」と言いますが、ぶっちゃけた話、「”好きだと思える科”なんてない…」という方も多いでしょう

私も研修医のときに、この件に関しては人並みに悩みました。

その最中に、自分の中で判断基準のようなものをいくつか設定しつつ、なんとか自分の進路を選びました。

今回は、私が専門を選ぶにあたって考えていたことの中から、主な要因を3つ抜粋して記してみようと思います。

専門を決めかねている若い先生方に「こういう視点もあるよ」という提案になれば嬉しいです。

 

1.将来もお仕事をもらえるかどうか

念のために断っておくと、社会的需要がない科なんてありません。念のため。

ただ、やはり各科で扱う疾患ごとに症例の多い・少ないというのはあります。

例えば、コロナ禍前のデータ(平成29年)とはなりますが、全国健康保険協会東京支部のサイトによると、外来患者数を含めた、主な傷病の総患者数の最多は「高血圧性疾患」で993万7,000人、第2位が「歯肉炎及び歯周疾患」で398万3,000人、第3位が「糖尿病」で328万9,000人となっていたそうです。

高血圧や糖尿病、脂質異常症などは基本的に長く付き合っていくものですから、必然的に症例数は多くなっていきます。

症例が多いということは、自分が学んだ知識を活かせる機会も多いです。

また、将来的にこれらの疾患の症例数が極端に減少する、という状況も考えづらいでしょう。

すなわち、将来も専門を活かした仕事が見つかりやすい…ということになります。

一方で、症例数が非常に少ない疾患を専門にする科もあります。

もちろん、そうした専門の先生を必要とする患者さんは確実にいますが、やはり継続的に専門性を発揮するためには、希少な症例が紹介されてくる大学病院などの限られた場や、特定のポジションに所属する必要が出てきます。

ということは自然に、席の数は限られます。

すると、これはあとにも述べる内容とも関わってきますが、働き方にある種の制限がかかってくる可能性もあります。

もし、今、迷っている科が複数ある場合は、例えば10年後、20年後も、安定してお仕事をもらえそうなのはどちらか?というのは一考の価値があるかもしれません。

 

2.働き方に多様性はあるか

医者の働き方は様々です。

大学病院や総合病院に勤務する先生や、自分でクリニックを開業・運営されている先生、あるいは私のように複数の医療機関で働くフリーランス医もいます。

ただ、全ての先生が自分の専門を活かしつつ、色々な働き方を選べるか、というとそうでもないかもしれません。

例えば、血液内科や内分泌疾患専門のクリニックを開業されている先生は少数派でしょう。

疾患の頻度が比較的稀であるため集患がしづらかったり、診断のための検査や専門治療を継続的に行うためには十分な施設を設ける必要がありますが、それを個人レベルで行うことは容易ではないからです。

もちろん、専門に加えて内科領域を広く診る、というかたちで開業することは可能だと思いますが、多くの先生は、専門性を優先する場合は大きな病院での勤務医という働き方を選ぶことになります。

また、外科系の先生の場合も、手術を長く続けていく場合は、病院勤務を選ぶ場合が多くなると思います。

手術を行うには設備が必要ですし、他職種が連携するチームプレイですから、Dr.Xの大門未知子のようにフリーランスで手術をしまくっている外科医の先生というのは稀でしょう(0ではないのでしょうが)。

医師は、ほとんどの方が勤務医としてキャリアをスタートさせます。臨床研修は研修指定病院でしか受けることができないからです。

ですから、「別にずっと勤務医でも大丈夫」と思われる先生もいると思いますが、人生は長いです。

今後、家族が増えたり、健康状態が変わる可能性がある中で、10年後も同じように答えられる保証はありません。

キャリアにおいて、何かあったときにこれまで進んできた方向と別のほうへ舵をきれるかどうか、というのは大事な要素です。

専門科を選ぶ際は、自分にとっての理想の働き方はどのようなものなのか、それは将来も継続可能なものなのか、そもそも進もうとしている科でそのような働き方は可能なのか、ということを考えておくことは大事かと思います。

 

3.業務の性質が自分のキャラクターに合っているか

非医療者の方にとっては、医師の業務が科によって多種多様…というイメージはあまりないかもしれません。せいぜい、内科と外科くらいでしょう。

しかし、実際は内科の中でも消化器内科と呼吸器内科の先生の業務内容はかなり違いがありますし、外科の中でも消化器外科と整形外科の先生の働き方は重ならない点が数多くあります。

医師という働き方は、扉が違えば全く景色が異なります。

なので、自分が選んだ科の働き方が、自分のキャラクターに合っていないと結構キツいです。

わかりやすい例で言うと、他人とコミュニケーションを取るのは苦手で何事も一人で黙々とこなしたい、という方が外科系を選ぶとつらいことになるかもしれません

先に述べたように、手術はチームプレイですから、必ず多くの人とコミュニケーションをとりながらこなすことになります。

漫画「ブラックジャック」で、一人で手術を行うお話がありましたが(しかも自分自身を!)、さすがにあれは漫画の中だからこそできたことです。もちろん、寡黙な名外科医の先生もいらっしゃいますが。


出典:ブラックジャック 第117話より

逆に、何事もみんなでワイワイやりたい、という方が、病理医になるとしんどいかもしれません。

もちろん、剖検などは人が要るでしょうし、みんなでワイワイやってる病理部もどこかの病院にあるのかもしれませんが、組織診断や細胞診断など個人で行う業務も多いでしょう。

専門科を選ぶ際にはあらためて「自分は何をしているのが好きか」、そして大事なのが「どんな業務が自分には合わないのか」というのは自分の中でちゃんと棚卸しておいた方がよいかもしれません。

 

以上、自分が専門を選ぶ際に考えていたポイントの中から3つ、紹介してみました。

こんなことはもう考えたわ!という先生もいるかもしれませんが、もしまだそれでも迷っているなら、あらためて見直してみるきっかけになれば幸いです。

また、以前にも紹介しましたが、やはり自分のキャリアを迷っている方に読んで欲しいのは、森岡毅さんの「苦しかったときの話をしようか」です。


こちらに関しては、以前にも記事を書いていますので参考にしていただけると幸いです。

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専門を決めるのって大変ですよね。先にも述べたように、100%、何の迷いもなく一つの科を選べる人は少数派でしょう。

ただし、仮に自分に合わない選択肢を選んでしまっても大丈夫です。人生は長いですから、いつからだって選び直すことができます。

私も今は、内科をやりつつ、産業医という仕事の面白さに気付いたり、起業してみたり、色々です。

 

今回の記事が、専門を迷っている先生方の一助となれば嬉しいです。

以上、私が専門を決めるときに考えていた3つのことの話でした。